極私的偏愛映画⑥『ダーク・スター』宇宙空間を舞台とした脱力系SFコメディ。唯一無二の飛びぬけた怪作。

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前々回の『スモール・ソルジャーズ』の紹介の際に、”幼少期のショック”に勝る映画経験は無いような事を申し上げてしまったが、成人しても、衝撃のあまりそれまでの価値観や原体験を塗り替えてしまうような作品も稀にだが存在する。

 

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多くの場合は、己の不勉強を呪うばかりで、どこか「自分とは違う、外の世界の出来事」として線引きを行い、”よそはよそ、うちはうち”といって、そのショックを和らげてしまうのだが、時に「晴天の霹靂」、「目から鱗」のことわざの通り、

観た際のショックで打ちのめされるばかりになってしまう状況も少なくない。

 

今作『ダーク・スター』も、そうした数少ない、”どう足掻いても勝ち目の無い傑作”として、当時、低予算で映画を作るほか無かった当時の筆者にとって、良い作品というのは、予算や規模でなく、常にひらめきやセンスなのだと強く思い直すきっかけとなった思いで深い作品である。

 

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21世紀半ば。人類は宇宙に新天地を求めていた。その使命を担った光速航行の探査船ダーク・スター号は、優秀なコンピューターに統括され、4人の乗務員により、発見した不安定惑星を爆破し続けていた。途中、小惑星群の嵐に遭遇し、レーザーに異常が起きたが、だれも気がつかなかった。やがて爆破作業の途中で事件が起きる。20号爆弾が指令を無視して動き始めた。20号はレーザーの故障で船体から離脱できない状態だった。20号には宇宙船と同様に搭載された爆弾それぞれにコンピュータが組み込まれていた――

 

 

監督は名匠、ジョン・カーペンター

ニューヨーク1997』『遊星からの物体X』や『ハロウィン』など手がけた作品は数多く、そのどれもがカルト映画として何かしらの爪あとを残しつつも、間違いなく1980年代の映画界を象徴する重要人物といえる。

 

今作もまた、そうしたカルトな一作として根強い人気を誇る作品であり、

 近年、『ホドロフスキーのDUNE』からのタグ付けの影響(後述)もあってか、リマスター化されたブルーレイBOXセットとして再販の日の目を浴びたばかりだ。

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さて、今作が根強いカルト的な人気を誇る理由について説明する前に、

筆者がこの作品を鑑賞するきっかけとなった上映と、その際に判明した今作にまつわるこぼれ話を記さねばならない。

 

今作を実際に大スクリーンで鑑賞する機会に恵まれたのは2014年の「第36回ぴあフィルムフェスティバル」における特集上映であった。

 

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同年のぴあフィルムフェスティバル(以下PFF)において、さる友人らスタッフで制作した自主制作映画がこの年のPFFに見事入選。

 

京橋フィルムセンターでの期間限定での上映が決定した頃、PFFの上映プログラムの一環として「SF・怪奇映画特集」と称して、今なおカルト的な人気を誇るSFホラーの名作の懐古上映が組まれていた。

 

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たまたま、こうした類の映画に対して好奇心の強い友人が輪の中にいたこともあり、

筆者を含めた、監督ら3人で『ダーク・スター』を鑑賞する流れとなった。

 

さて、鑑賞後どうだったかというと、

脱帽。

 

ただヾ脱帽である。

 

ただでさえ、上映の傍らで自分たちの作った映画が他の自主映画たちと肩を並べ、

競い合い、自らをフルイに掛け合っているような状況下で、だ。

 

圧倒的な映画としての厚み、センスやキャッチーさ、どれをとっても『ダーク・スター』の持つパワーに対して打ちのめされるばかりであった。

 

正直、この年に競い合っていたどの自主映画よりも面白く

筆者個人としては、「この年のPFFのグランプリは間違いなくダーク・スター」と確信していたほどである。

これは決して大げさな話ではなく、今作が学生が制作した、自主映画版『ダーク・スター』をやや規模を大きくしてのリメイク作品であるという事実がより筆者の「敗北感」を強める原因となっていたのである。

 

ぼくらとさほど境遇も年齢も変わらない、海を越えた貧乏な若者が作った映画」という見方で捉えた場合、今作のもつ得体の知れないエネルギーも、”その当時でしか作れない唯一無二のもの”という一瞬の輝きがあって良く、なにより低予算ゆえの安っぽさも、シリアスに傾倒することなく、大胆にコメディの方向性で舵取りが行えている為、大いに笑いの恩恵にあやかる事が出来ているのも、実に計算高くクレバーな印象を受けた

 

上映後のトークセッションによると、今作は当時の発足して間もない”ぴあ”が買い付けた映画のうちの一本であり、現在は京橋フィルムセンターにオリジナルの35mmフィルムが現存しているため、上映が実現したとの事。

当時もかなり評判となったらしく、つくづくこれを買い付けることにした判断の正しさには感銘を受ける。

 

監督はジョン・カーペンターとなっているし、実質、今作が氏の処女作となっているため、取り上げられることの多き『ダーク・スター』であるが、

今作の独特な雰囲気作りに最も影響していると思われるのが、

出演・特殊効果・共同脚本で今作に携わった、ダン・オバノン氏の貢献によるものと推測する。

 

ハードなSFオタクとして知られるオバノンであるが、そのキャリアは実に興味深いもので、SFホラーの傑作『エイリアン』の脚本に携わり、『スター・ウォーズ_EP4』特殊効果、『スペース・バンパイア』脚本など、誰もが知る有名作からマニアのみぞ知るようなカルト作まで、多くの作品に携わっており、

後年は脚本執筆がメインとなってしまっているが、今作におけるオバノンによる特殊効果も印象絵画のような鮮やかな色彩に彩られた宇宙空間のビジュアルは凄まじく、

宇宙(星間)ガスと呼ばれる、水素やヘリウムを主体としたカラフルな現象は、

浮遊感のある物語とオーバーラップし、LSDによるトリップ効果のような印象さえ受ける。

 

なにより、『ダーク・スター』制作後、当時『デューン砂の惑星』の制作を目論んでいたアレハンドロ・ホドロフスキーの目に留まり、

(正確には、最初は『2001年:宇宙の旅』特殊効果のダグラス・トランブルに話を持ちかけたが、創造性の相違により決裂。偶然観たダーク・スターにオバノンの名前を発見し、マリファナを手土産に交渉を行ったという※本人談)

 

残念ながら諸々の事情により、ホドロフスキー版『デューン』は完成品として日の目をみることは叶わなかったが、その後の『エイリアン』や『スター・ウォーズ』が制作されるための重要なターニングポイントとして伝説の存在なったというから面白い。

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現在の基準で見ると、ややチープな印象を受ける今作の美術やセットも、「ピコピコ」と音を立てて機能する操作盤に象徴される、いかにも当時の考える「未来感」を思い起こさせてとても良い。

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今作のもつ、コメディ性についても言及しなければならない。

 

一口に言い辛いが、とにかくクドく突拍子もない場所から飛んでくるボールの如く予想不可能ながら、どこか腑に落ちてしまう笑い、といったところだろうか。

 

とにかくSF作品とは思えないぐらい、船員たちのリアルな”みみっちさ”が笑えるのである。箇条書きながら、個人的に笑えるポイントを書き連ねてみる。

 

①とにかく些細なことで喧嘩する船員。(狭いとか)

②自室に引きこもり、自作のビンで作った楽器を奏でることでメンタルコントロールしている船長

③船内で飼っている謎のビーチボール星人とオバノン隊員とのクドすぎる攻防

ダーク・スター号のご意見番として冷凍保存されている前・船長(文字通り、たまにフリーズする)

ダン・オバノン隊員の出自そのもの。こんなん笑うわ。

⑥徐々に自我に目覚めていく人工知能くん好き。

⑦無駄に爽快感のあるラスト。

 

今になってみれば、『エイリアン』のノストロモ号の生活感に溢れたディテールや、役者やり取りも、『ダーク・スター』での自主映画的なノウハウがあったからこそかもしれない。

 

今までにご紹介した極的偏愛映画の中でも、もっとも見やすい状況にあり、もしかしたらツタヤの発掘良品コーナーに行けば、今作のDVDが置いてある可能性は非常に高いので、気晴らしに鑑賞してみることを強くオススメしたい。

 

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