『 #プロミシング・ヤング・ウーマン』感想 被害者みたいな加害者、加害自覚のない加害者という地獄 ※ネタバレあり

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今作の主軸となる告発される男性像がステロタイプのマッチョやオタクとかではなく、いわゆる”優しい男”という点が面白かった。
送り狼をかまして、女性が寝ている間にパンティに手をのばす卑怯な男。
 
そもそも、これまでの映画自体が男性監督の視点で描かれたものが多いから、本当の意味での女性が抱えてるしんどい部分とか、いざ格闘技術もロクにない女性が180センチ近い男と殺し合いのタイマン張って無傷で帰れるわけねーだろ、という話を真剣に描いていて良かった。

結局、体重が2倍近い男にマウントを取られた時点でキャシーの負けは確定しているのだけど、それでもなお女相手に全く手加減する余裕もない男。友人に諭されるまま遺体を隠蔽してしまう意志の弱い男。
彼女に愛想を尽かされるのが怖くて、メソメソと親友の胸ですすりなくような男がいざ無抵抗の女性を前にすると獰猛な獅子へと変貌してしまう恐ろしさ。

(映画としての純粋悪は、アルの友人のジョンなんじゃないかという気もしたけれど、、、だいたいこいつのせい)

ライアンはあれさぁ、連行こそされなかったけどキャシーの死体遺棄に関わってなかったとはいえ過去のニーナレイプ事件で関わっていた人物として医師としてのキャリアは完全に終わりだよね。社会的な死だよあれは。
彼が最も恐れていたこと。あの時点で、「将来有望な青年」のレールからは外れてしまったんだよね。

キャシーと過ごした時間の描写からも、「全くの悪人ではない」ということは分かっているからこそ、キャシーは最後にああいうメールをライアンに宛てて出したのだろうけど、この映画で告発しているのは実はライアンのような「優しい男」なんだよな。(そこが一番怖いところでもあるけど)

過去を追及した時にライアンが発した「お前には後ろ暗い過去がひとつもないのか!」という発言。
さすがに校舎裏でタバコを吸ったような軽度のヤンチャと女性ひとりをレイプするのとじゃ、次元が違うだろうというツッコミは即座に頭をよぎったものの、もうあの時点でライアンの未来は閉ざされたんだよな。

結局キャシーが殺人を犯したり、元友人の女性を泥酔させて男を雇いレイプさせたのか、様々な要素が明確に描かれないところがミソではあるな~と思ったけれど(実際、殺した風にシャツに飛び散った血はスイーツのソースで、冒頭の男は生きてるっぽいし)もし本当にやってたら、「言うてあなた結局殺人犯ですよね?」となってしまうので、自分的にはキャシーは殺人だったり間接的なレイプはしていないと信じたい。
(反面、自分の意図を他人がやってしまうことに躊躇が無いところがキャシーのヴィジランティ的な面での面白さではあると思うけど)

被害者でありながら加害者になる人間、加害者でありながら被害者を装う連中、加害者でありながらその自覚もない連中。
 
この映画が描いているのはそうした現代の複雑化しねじれた男女の関係や、種としての力関係のバランスなのだと思った。