極私的偏愛映画⑤『コータローまかりとおる!』爆発的なエネルギーに満ちた傑作。元気を通り越して涙が出てくる現象を”感動”と呼ぶのかな。
今作を鑑賞する、直接のきっかけとなったのは友人からの強い勧めによるものである。
当時、京橋フィルムセンターで開催されていた、
”特集・逝ける映画人を偲んで 2013-2014”
という特別上映プログラムの一環で、2014年に死去した今作の監督、鈴木則文を偲ぶための再上映であった。
友人からの強い勧めのポイントとしては、「主人公が俺と同じ名前」「ハチャメチャだけど、元気が沸きすぎて目から液体となって出てくるぐらいエネルギッシュだから観て」
という、訳の分からない理由からだったのだが、
強いオススメ感と、今だに諸問題からDVDリリースが行われていない為、鑑賞のチャンスとしては絶好のタイミングという理由から、足を運ぶ算段となった。
予告編すら見当たらねぇ有様。
さて、鑑賞してみてだが、得体の知れない”満足感”に支配され、気が付けば鑑賞後は、
涙ボロッボロになっていたという…
原作は同名の『週刊少年マガジン』にて連載されていたシリーズ作品。
今作公開時は全7章に渡る長期シリーズのうち、映画化までに掲載されていた、第3部までを踏襲した作りとなっている。
今作鑑賞後に改めて原作を見返してみたが、以外と原作に忠実ながら、
ここまでバカを突き詰めるか、と感心した。
主演のコータローを演じるのは、俳優:黒崎輝。
現在は俳優を引退し、沖縄でスキューバダイビングのインストラクターになってしまっているのだが、特撮に馴染みの深い層には『巨獣特捜ジャスピオン』の主人公として有名である。
今作の前身として制作された『伊賀野カバ丸』でも主演を務めているが、
ほぼ同スタッフにも関わらず、その破壊力は『コータローが~』が圧倒的に勝っている。
脇を固めるのは当時、JAC(ジャパン・アクション・クラブ)所属として、2枚目アクションスターの地位を誇っていた真田広之。同じくJAC出身の『宇宙刑事ギャバン』こと、大葉健二。
よろしく勇気。
他、ヒロインの真由美として当時JACの新人として売り出し中だった千原麻里、
詳細はめんどくさいので省くが、とてつもなく如何わしい役回りでJAC創始者である千葉真一がカメオで出演。
ヒロインの父親として警視総監役を山城新伍が熱演。
成長した娘を前にして、劣情を催した挙句、
「こりゃ、警視総監ならぬ、近親相姦じゃわい」というコンプラ的にアウト過ぎる発言で会場大爆笑。
そして忘れてはならないのが、志穂美悦子。
圧倒的、志穂美悦子ォ!!(立木文彦風に)
あとは、コータローを袋叩きにしようとする空手部員役で原作者の蛭田達也がカメオ出演。いいのを喰らって気絶寸前ながらもコータローの足に絡みつく姿を形容して
コータローに「ヒルみてぇな野郎だな」と言わしめている。
今作は、前述のJAC(ジャパン・アクション・クラブ)のスター総出演といっていいほど、”まずアクションがありき”として制作された痛快学園コメディであり、
日本映画史でも5本の指に入るくらいの体当たりでのアクションを敢行した、超娯楽作品である。
役者が危険なスタントや立ち回りも含めてほぼ全てを自らで行っているため、とにかく見ごたえのある内容となっている。
演技も出来て、アクションもお手の物、という。
特に、今や海を跨ぐ演技派として認知されている真田広之が魅せる、キレのあるアクションは、現在の真田しか知らない世代が観たら、なかなか感銘を受けることうけあいだ。
さて本編だが、
マンモス校である私立鶴ヶ峰高校を舞台として、運動神経抜群を持ちながら、”のぞきの常習犯””パンティー泥棒”などで風紀を乱す問題児として風紀委員から目を付けられまくっている、主人公のコータローこと新堂 功太郎を捕らえるべく、コータローの特徴でもある、腰まで届く後ろ髪(ポニテ?)を切った部活には賞金として100万円を進呈すると豪語する生徒会、
賞金を手にするべく、学園内のありとあらゆる部活メンバー対コータローの追いかけっこから幕を開ける。
運動系の部活はもちろん、手芸部や華道部など、賞金に目のくらんだ部活動がありえない方法でもって、コータローを追い詰めるが、ヒラヒラと逃げ回るコータロー。
原作でいうところの”コータロー参上!”編にあたる素晴らしい導入で、
原作未見でも分かりやすく舞台や登場人物、作品の倫理観の危うさをこれでもかというアクションてんこ盛りで魅せ上げてくれる。
特に、爆弾を手渡された堅物生徒会長の顛末は、現在だからこそ抱腹絶倒の出来栄えで、「”マンガを実写化する”というのはここまでの思い切りが必要なんだ」という、
鈴木則文のクレイジーな部分が全てプラスに転換されてしまうマジックが常時発動する無間地獄。
以降は少し本編のストーリーから離れたところで”クララ姫編”という物語が始まるのだが、これがもしかしたら本編随一で頭のおかしいパートで、
さる王国からやってきた姫君を鶴ヶ峰学園に体験入学させることになるが、
哀れ、スカートめくりの常習犯コータローの毒牙にかかり、豪華絢爛王族パンティを世界中が見守るカメラの前で晒してしまう羽目に。
ところが、殿方に辱められたのが癖になってしまったクララ姫は、その日の夜から執事にスカートをめくり上げるよう命じ始め、コータローに想いを寄せるものの、既に帰国までのタイムリミットを迎えていた…
というもの。いやぁ、頭おかしいわぁ やっぱり。
この頭のおかしいパートを抜け切ったあとは、アクション映画らしく学園内の暴力集団として登場する”蛇骨会(じゃこつかい)”との争いがメインとなってゆく。
やや物語がシリアスな路線を辿る一方、チャップリンの『モダンタイムス』や『カリオストロの城』を連想される大掛かりなセットを駆使した、より派手なアクション展開が見ものとなっている。
特に、ラストシーンの生身による大ジャンプは、トム・クルーズも裸足で逃げ出すほどの高さからのノー命綱状態。
本当にこの頃の映画はどうかしてるよ。
ラストは「普段と変わらぬ鶴ヶ峰の風景に戻りましたね」というところで、
前半と同じく逃げ回るコータローと、追いまわす生徒会&部活メンバー、という冒頭のシーンへと帰結する。
ちびくろサンボよろしく、学園内を走り回り、不自然な軌道を描いた後、
ひらけた場所に逃げ込むと、カメラが真上からのポジションになり、
列になって座り込むと、人文字で「お わ り」になる。という遊び心のあるラストカットで終劇となる。
最後の最後まで、まったく飽きさせないよう注意を払いながらも、
はっちゃけるところはありえないくらいはっちゃけている。
筆者はこの「お わ り」が出たところでふいに涙腺崩壊。
なんというか、自身が暗黒に近い状態にあったせいもあってか、エネルギーに満ち溢れた登場人物が走り回り、生き生きと飛び回る姿を目にして、
なんだか、感極まってしまったんですね。
「俺もこうありたい」と願ってしまったんですね。
何を言ってるんですかね。
他にオススメ所は多く、特に大葉の帯電チャージの下りとその後の真田による、
”もったいない精神”の張り合いシーンなど、明らかに本編には不要ながらも、
カルトなファン曰く、「あれこそ今作の真髄」と言わしめるシーンは数多い。
残念ながら、今作は『ミュータント・タートルズ』の時と同様、
諸問題からかこちらの作品も、VHS化はされていてもDVDのリリースはなく、
神保町シアターや池袋の新・文芸座、京橋フィルムセンター等での再上映のみでしか、
鑑賞が困難となってしまっている。
この不朽の名作をなんとか手元に置いておきたいという想いから、ヤフオクで当時のVHSをなんとか入手。布教に努めるべく、絶賛DVDに焼いてくれる店を探している最中である。
2021年8月26日追記
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