極私的偏愛映画⑲『コマンドー』 ネットが育んだカルト映画。一番気に入ってるのは、、、テレ朝版だ。
ドーモ。シンタヨデです。
あまりにも有名すぎる映画なので、とりわけ紹介する必要もないかと感じていたのですが、
何をトチ狂ったのか、去る2020年、6/21〜6/27の期間、池袋の新・文芸坐にて、
”『ランボー〜最後の戦場〜』&『コマンドー』の二本立て上映”という、
対コロナウイルス対策としては万全の備えと、「ウイルスに対抗するには筋肉しか無い」という劇場側の強い意志を感じる特集上映が組まれていたので、Uberの仕事を早々に切り上げ鑑賞。
コロナ自粛明けの映画としてはこれ以上ないくらいご機嫌なチョイスではなかろうか。
言わずとしれた、”鉄骨州知事”ことアーノルド・シュワルツェネッガー(きんに君風)
主演の1985年公開のアクション映画である。
シュワといえば、キャリアのスタートもいえるボディビルディングでの華々しい功績をまず思い浮かべる。業界の登竜門と言われるミスターオリンピアの常連であったアーノルドは、文字通りボディビル業界の”レジェンド的存在”であり、映画俳優としてのデビューを飾った1984年公開の『ターミネーター』での活躍は、もはや説明の必要も無いだろう。
のちに”アーノルド・クラシック”と呼ばれる後進のボディビルダーたちの為の大会の主催を務めるまでに至っている。
政治的な展望もあったのかもしれないが、氏の肉体の完成度と美しさをもっとも効率よく、大衆に誇示するために銀幕デビューに至ったのは至極当然の結果と言えるが、
今作、『コマンドー』は、そうしたアーノルドの俳優としての新たな転機や飛躍、
また、氏の魅力を存分に引き出した”シュワ映画”としての完成度の高さやシンプルがゆえの力強さ、脇を固めるキャスト陣、スタッフの堅実な仕事ぶりにおいて、
他の映画よりも頭一つ抜きん出ている印象が強い。
要するに最高の映画ということだ。
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今作が「ネット上のカルト映画」と呼ばれるゆえんについて、いくつかの理由があるのだが、ひとつは”シュワ映画”というジャンルがある一定数の指示をもって受け入れられていていることがあるが、それもはたしてこの人類にどれくらいの分母で存在するのか、分からないので今回は割愛する。
今作がテレビ全盛期、洋画全盛期の1990〜2000年代にかけて繰り返しテレビ放送されたことにより、洋画ファンの間で絶え間ない認知を広めたことが要因とも考えられるが、それも作品自体のもつ魅力の前では、ひとつの要素に過ぎないだろう。
『コマンドー』という作品が長く、強く愛される理由は、やはり作品自体の持つ魅力に他ならないからだ。
今作はテレビ放送をされる際にも大きく分けて『コマンドー』を愛するフォロワーたちにとって馴染み深く、最も人気の高いのが「テレビ朝日放送版」ではないだろうか。
今回、シンタヨの鑑賞した吹替版も、もちろんこのテレビ朝日放送版だ。
コアなファンの間では「平田版」と呼ばれるこちらのバージョンについては、
翻訳家の平田勝茂さんによる翻訳版を指すのだが、
氏の翻訳、意訳のクオリティの高さが凄まじく、本来の原語版のニュアンスを逃すことなく捉えつつ、かつ洋画らしい気の利いた言い回しやテンポ、一度聞いたら忘れられず、思わず日常会話で引用したくなるような言葉のチョイスは見事としか言いようがない。
参考まで下記に『コマンドー』名言集をまとめたリンクを引用する。
「筋肉モリモリマッチョマンの変態」
「とんでもねぇ、待ってたんだ」
「お前は最後に殺すと約束したな。あれは嘘だ」
「こんなの飛行機じゃないわ! 羽のついたカヌーよ!」→「だったら漕げばいいいだろ!」
「なにが始まるんです?」→「第三次大戦だ」
など、ざっと有名なセリフを抜き出しただけでも劇中の描写を思い出してしまい、
つい表情がほころんでしまう。
『コマンドー』は、いかにもアメリカ産エンタメ作品らしい作品だ。
細かいことには目もくれず、圧倒的な熱量とビジュアルでもって理屈を制してしまうパワーが1980年ごろから続く、アメリカ作映画の醍醐味だと思うのだが、
今作はそうしたゴリゴリのアクション映画のもつバカバカしさやパワーを、アーノルド自体のキャラクターが映画自体を後押しする形で強調し押し上げているのが面白い。
物語冒頭で、娘を誘拐されたアーノルドが配線を切られた車を坂から突き落として乗り込み敵を追跡する、のちに「位置エネルギー車」と揶揄されるカーチェイスシーンが披露されるが、描写だけ追っていけば酷く馬鹿らしいシーンでも、「こいつならやりかねない」という、筋肉で理屈を圧倒する快感は本作の大きな魅力のひとつとなっている。
有名なセリフの一つである、
「娘を取り戻したければ俺たちに協力しろ。OK?」
「OK!(ズドン)」
というシーケンスがあるが、
原語版である英語字幕では、敵の問いに対してアーノルドは
「OK!」ではなく、「wrong!(断る!)」と答えているので、翻訳に忠実なのは
「嫌だ!」TBS放送版なのだが、そこを「OK!」といって迷いなく敵の眉間に銃弾をぶち込むシーンに変えたことは、平田氏の翻訳のセンスが最も光るところだろう。
アーノルド演じるメイトリクス少佐というキャラクターのユーモアと理不尽さが余すことなく最低限のセリフで表された、見事な意訳だと思う。
何かあるとすぐに「また第二次大戦が始まった」と大騒ぎする描写も、いかにもアメリカさんらしいなと感じるし、粗暴な言い回しや人を食ったような口調、比喩の傾向など、『コマンドー』には僕らの知る”洋画”の愛すべきポイントがこれでもかと詰め込まれた幕の内弁当のような作品だ。
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今回鑑賞したタイミングは、自粛明けということで席を間隔をあけた限定的な上映であったが、やはり上映中はおなじみのシーンとなると客席からはドッと笑いが漏れることも多々あり、やはり映画館で映画を観るのは楽しいなと実感できた。
願わくば、応援上映という形でまた鑑賞したいとは思うのだが、ともあれ往年の名作を改めてスクリーンで鑑賞するというのはよい経験だった。