映画『ソングドリーマーズ☆』これからはアイドル謙俳優!最強のタレントを目指すゾ~☆
以前、友人からの「これはガラ空きホイホイ映画だから!」という謎の薦めにより観た映画の感想になります。
恐らく、身辺で関係者が居る可能性がある作品につき、公開するが迷っていたが、
正直、「知ったこっちゃねぇ」ので供養がてらに再掲。
ただ毎日をやり過ごすだけの清澄誠司(橋本真一)にとって、男性アイドルグループ「4U(フォーユー)」の曲を聴いているときだけが幸せだった。そんなある日、彼は4Uの所属事務所主催のオーディションが開かれることを知り、早速エントリーする。会場には反町大介(山口純)、青山実(野田優也)、月島京(輝山立)らが集まっていた。そしてオーディションの結果、社長の一存により来ていた7人全員が合格となり……。
ダ、ダサい…ダサすぎる…。開始5分と経たずに身悶えした映画は久しぶり。
どこまで本気か分からない演出、生き馬の目を射抜く、厳しい映像業界をサバイブする為、全盲に陥った業界人特有の笑いの押し売り感。どれをとっても本作は高水準の域に達していると評価せざるを得ない。もはや観る原水爆。
映像/演劇問わず、過剰演技を熱演と勘違いし、その作品で何が求められているか思考せず、ひたすら自己アピールに徹する有り難迷惑系男子、絶賛売出し中の若手俳優を一律に“蒼空大樹”と呼称し対応させて頂いているのだが、今作はそんな蒼空大樹ズの、
溶けきったマーブルチョコのような映画なんだよなぁ…。
今作は「ライヴ×舞台×映画」をコンセプトに、主題歌の制作、舞台上演を経て、待望の劇場映画化との事。フーン…。
本気でこんなの立ち上げから関わった連中が居るとしたら、仕事とはいえ、正気の沙汰とは思えません。
主人公の清澄はアルバイト先の工事現場で働きながら、夢であるアイドルになるため、日々努力を…アレッ?コイツなんもしてねぇぞ? まぁ、いいか…
夢を少しでも現実にする為、思い切って憧れのアイドルユニット「4U(フォーユー)」の事務所が主催する新人発掘オーディションの会場へと向かう清澄。そこに居たのはエセ外人謙デクの棒、「ざます」口調にこの映画最大の悪意を感じる御曹司のドラ息子、「東大目指してます!」とのたまう前に勉強したら?という苦学生…いずれもキワモノ揃いだが、ルックスも経歴も申し分ない粒揃いの面々を前に、完全に戦意喪失。
あろうことかオーディションの最中、逃亡するという失態を晒す清澄くん。
「もうダメだ…」と諦めかけていた所に事務所の会長(ジャニーさんがモデル)から、
「採用」を告げる電話が鳴る。
愛用のウイスキーボトル片手に、酔いどれ気味に採用の真意を語る。
「彼の履歴書を見たよ。見事なほどに真っ白。空っぽだ。そういう奴ほど、この世界に飛び込む資格がある。なぁ?大和?」
傍らには人気絶頂ユニット「4U」のリーダー大和の姿が。
「誰かさん(大和)にそっくりだと思わないか?(ニヤリ)」
…こういうシチュエーション、今まで死ぬほど観た気がするのだが…
兎に角、今作の中では「空っぽ」であることがひたすら強調される。
「空虚」というよりも、限りなく「無垢」であることが、良くも悪くも新人の技術の吸収、人格の形成、事務所のカラーに染め上げるのに一番効率が良いという事なのだろう。
会長の気まぐれとはいえ、どうにかアイドルとしての第一歩を踏み出した清澄くんだったが、依然としてバイトはあるし、メンバーの連携もクソミソ。
トレーナーには匙を投げられてしまう始末…。
ある日、かつて想いを寄せていた、元同級生の女性と再会する。
「清澄くんて今、なにしてるの?」
「たいしたことしてないよ…」
「当てよっか! 平日の日中でTシャツ…
“ア”で始まって、次は“イ”!」
「まぁ…ね。まだ駆け出しだけど…」
「すっごーい! IT関係の仕事なんて!」
「えっ」
まるで脚本でも有るかのような自然な会話に、
次第にガラ空きの口角も吊り上る。
と、ここで同じく元同級生で友人の男が登場。
実は二人は既に男女の仲だった。
その割にはセックスの臭いが全くしない、所謂バカップルなのだが、清澄はかつての片思いの相手に男(しかも知り合い)が居たことに大ショックを受け、自分がアイドル見習いで、バイト生活に明け暮れる落ちこぼれであることを暴露し、足早にその場を立ち去ってしまう。
傷心の最中、ひたすら日々のレッスンに明け暮れる清澄だったが、清澄の中にかつての自分を見出した大和の助力もあり、次第に才能を開花させ、真剣にアイドルを目指すことを考え始める。
そんな清澄に先輩としてアドバイスをする大和。
「いいか…ん、ちょっと待ってろ(小走り)」
公園の片隅に捨てられた、うす汚い小瓶を手に戻ってくる大和。
「いいか、瓶が空っぽでも、雨水で満たせばいい。な?」
「…!! はい!」
なんと平和な世界だろう。
3週間後のプレデビューで華々しくデビューを飾らせると意気込む社長。
大和は駆け出しだった頃のデモテープを後輩たちに託し、作詞に清澄を指名する。
決めかねていたユニット名を立案する大和。
「ネクステージ…過去は振り返らない。そんな意味を込めたつもりだ」
ここから「ネクステージ、過去は振り返らない」の、やんややんやの大合唱。
「アイドルとは宗教なのだなぁ」と感心しつつ、体育会系独特のテンションの高さに、遥か遠方の大自然の息吹、ジャングルに住む部族のような異様さに息を飲むばかりである。
だが、この状況を面白く思わない人物が居た。「4U」のメンバーである蓮(れん)である。
順風満帆に見えた「4U」の裏側では、大和と蓮を中心とした軋轢により、解散の陰りを呈していたのだった。
「4U」の存続よりも、ヒヨっこの育成に熱を出す大和に対し、「現実逃避だ」と非難の言葉を浴びせる蓮。
まったくその通りすぎて、一人で壁ドンしつつ、GACKT(ガクト)みたいな顔で悔しがってみせる大和。
その後、家でゴロゴロしつつ無事、歌詞を完成させた清澄。わざとらしいモンタージュと共に、次第に仲間たちの絆が深まっていく様子が、儀礼的かつ厳粛に描かれる。
自らの虚偽を脱ぎ捨て、文字通り「過去は振り返らず」にプレデビューに向け、練習に練習を重ね、ついに本番を迎える。
断っておくが、筆者は所謂「青春」なんてものは経験したことは無いのだが、「青春」とは、かくも「ゲイゲイしい」のだなぁ、と
目から鱗が出る想いだった。
本番当日、緊張のあまり失神してしまう清澄。
ボブ・サップ対曙戦の曙のような無様な姿を晒してしまう。
一方、メンバーの一員である、エセ関西弁を巧みに使いこなす秋葉くんはかつてのいじめっ子にバッタリ再会。トイレで服を八つ裂きにされ(?)精神的にレイプされてしまう。
あえなくライブは中止、解散表明を予定していた「4U」と社長の計らいによって最悪の自体は回避されたが、宙ぶらりんの状態となり、メンバーの心はバラバラになってしまう。
つまるところ、清澄の元同級生や秋葉のいじめっ子は「過去は振り返らない」と前進するネクステージに対してのネガ面、「逃げ切れない過去」のメタファーなのである。
「過去はどこまで逃げても追いかけてくる」
という現実と直面するからこそ、人は前を向いて歩いていけるのだという、人生の真理を、今作は主張する。
まぁ、それでも全体の薄っぺらさは払拭できないが…
兎も角、心が散り散りになってしまったことに対し、少なからず責任を感じる大和(ガクト顔をしながら)の元に、
「4U」イチのキザ野郎こと神保が現れる。
神保「暗がりで懐中電灯を持った奴が電灯を落としたら皆が迷うことになるんだZE☆
ワカるだろ?(チラッ)フッ…せいぜい頑張れよ。懐☆中☆電☆灯さん? じゃ、おっ先~☆」
大和「フッ…(ガク顔)相変わらずキザな野郎だZE☆」
なんだこの最高な会話。
そんなこんなで「ネクステージ」に再び、デビューのチャンスが到来。と、同時にわだかまりを残しつつも、どうにか再起の兆しが見えた「4U」との合同ライブが決定する。
本番直前、今まで「IT企業で働いている」と母親を欺いてきた自分自身にケリをつけるため、思い切って母へ電話する清澄。
一方、「解散」の二文字を全く感じさせない連携で次々と楽曲をこなしていく「4U」。
歌い終わり、大和と蓮の間にこれまで以上の深い絆。深く…濃厚な…男の“絆”が生まれ、Xジャパンよろしく熱く抱擁し合う大和と蓮。
涙ながらに祝福するメンバー、ブヒる観客。
いよいよ、デビューを目前に控えた「ネクステージ」だったが、どうにも清澄選手の様子がおかしい。直前の電話で母親に猛反対されたのが原因である。
ライブ中にも関わらず、白い粉でもキメたような酩酊状態に陥ってしまう。
アイドルを目指す男は皆、経験することなのかどうかは筆者には判りかねるが、
コイツ、まさか反対されないとでも思ったのか?とにかく、母親に否定されたショックでステージに突っ立ったまま、動けなくなってしまう。
この辺りの心神喪失感の演出が凄まじく、「ふざけて赤ん坊に顔を殴らせてみたら、
ヒクソン・グレイシー並みの力で延髄を刈り取られた衝撃」としか形容し難い演出なのである。そんなメンタルじゃ今後も辛いこと一杯あるゾ~、と思う頃には、すっかり「ネクステージ」のファンになっていた自分に気がついた。もし、サイリウムを持っていたなら、汗みどろで振り回していたことだろう。
予想外の出来事に呆然とする清澄くんを呼ぶ声がステージにこだまする。
客席に目をやると、そこにはコンビニに来たような気軽さで応援に駆けつけたバカップルの姿が! なんと自作の応援うちわまで作って来てくれたのである。(並びが「澄清」になっている徹底したバカっぷり)
二人の応援の甲斐あって、様々な思いをフッ切り、大和の想い、メンバーの想い、そして自らの想いをありったけ☆詰め込んだよっ!な新曲で踊り狂う清澄。
映画は、ネクステージの華々しいデビューを万雷の拍手で迎える観客(明らかにエキストラの数と声の多さが合ってないのだが、ご愛嬌)と、互いの努力と成長を称えあう「ネクステージ」の感動的な姿で幕引きとなる。
思えば、98分という内容の割には長尺な映画(しかも鑑賞した場所は消滅が決定した母校の映像スタジオ。観客は筆者と、涼みに来たジジイだけ!)に「よく堪えたね」と、
まずは自分自身にサイリウム付きでエールを送りたい。
とはいえ、決して不毛な時間だったとは思い切れないのが今作の不思議な魅力である。
若さを謳歌しているように見えても、実のところ「過去は何時でもついて回る」ものであり、重要なのは明日どう生きるか「決める」ことが生きることなのだ、という普遍的なテーマを所謂“アイドル映画”という今や定番化してしまったジャンルで高らかに謳い上げる様には、思わずめまいを覚えたが、それが熱中症によるものだったか定かではない。
ぶっちゃけ、今作を観る為に身損ねた名作映画もあったりするわけだが、それはそれ。
ネクステージを見習って、過去は振り返らずに生きなきゃねッ☆
~~おしまい~~