極私的偏愛映画㉑『ガン・ホー/突撃!ニッポン株式会社』

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1980年代半ば、日本が合衆国に続く世界第二位の経済大国となった時代の、所謂「時事ネタ」もの。監督は『ダ・ヴィンチ・コード』シリーズのロン・ハワード。
 
「ガン・ホー」とは、アメリカ海兵隊の団結行動を呼びかける掛け声だとか。

 

日本経済バブルの前夜ともいえるジャパンマネーに沸く、アメリカが舞台。「円がアメリカを買う」とも言われたほんの僅かな時期に製作された映画である。
 

 

ガン・ホー (字幕版)

ガン・ホー (字幕版)

  • 発売日: 2018/05/07
  • メディア: Prime Video
 

 

Gung Ho (1986) / ガン・ホーのあらすじ

住民の雇用を支えていた自動車工場が閉鎖されたアメリカの田舎町。活気も失せ始め、今後に対する不安の声があちらこちらから湧き上がってくる中、1人立ち上がったハント(マイケル・キートン)は、町の活気を取り戻すべく日本の自動車会社“アッサン自動車”の工場を誘致するために町の期待を受けながら日本へ出向く。

描かれるのは、ステレオタイプな日本人(演じているのはほとんどがアメリカ系中国人。ま、そういう時代だったしね。)だが、
「個」よりも「集団の中の調和」や「規律」、「美意識」を重んじる、日本人特有の性質を思いっきり茶化しつつ、「なぜ、小国の島国が世界第二位の経済大国になりあがったのか」という部分を、自国のメンタリティのアイロニーを交え、極めて市民的な視線から描いた今作。

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バットマンことマイケル・キートンは劇中でこう言い放つ。
今や世界第二位の日本様が、なぜ第二次大戦で負けたか言ってみろ!
 
「真珠湾を攻撃した」「兵站を無視した軍部」等、色々理由はあるでしょうが、
今作のテーマに則るならば、「お上に従いすぎたから」に尽きるでしょう。
 
この映画の根底として描かれているのは、日本的では先ず自己主張ありきのアメリカでは生きていけないし、白いものを黒とするような不条理にもぐっとこらえる日本では、アメリカ的なやり方ではかえって軋轢を生むだけ、ということ。
 
劇中では根本的な問題の解決には至らずに、目の前の目的に一丸となって取り組むという規模でしか結託できないという現実が、あからさまに設えたハッピーエンドの裏側に潜む。
 
劇中、業績の悪い社員はスーツに中傷の書かれたリボンを付け、社訓や己の怠惰を道場で絶叫させられるプログラムがある描写があるが、これがまた強烈。
 
「ブラック企業」や「サービス残業」といった言葉が未だ色濃く残る現代でも、なかなか胃の痛くなる物語だが、現代の我々はこれをコメディとして笑って過ごせるのか、甚だ疑問である。