感想『聖なる酔っ払いの伝説』~酒に溺れ 仁義に生きる 酒カス系ジェントルの生きざまに酔いしれる~

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『ヒッチャー』を一緒に観に行った友人からの勧めもあり、

なんとなくスルーしてしまっていたルドガー・ハウアー主演の今作をようやく観ました。

こちら原作ありきの映画ですが、 

聖なる酔っぱらいの伝説 他四篇 (岩波文庫)
 

 

ざっくりとしたお話の大筋としては、ある日河のほとりで出会ったホームレスのアンドレアス(ルドガー・ハウアー)が老紳士から200フランを受け取るところから始まる。

老紳士は「私に返さなくていいので、聖ルイーズ像のある教会の神父にお金は渡して(寄付して)くれ」と言って半ば一方的にアンドレにお金を渡して、

アンドレも別段それを拒む様子もなく、「落ちぶれてはいるが、これでも紳士だし、受けた義理は返す」といってお金を受け取ってしまう。

 

物語はアンドレがこの200フラン(現在でいうと2万くらい)というお金をいつ、どのように教会に寄付をするのか、というクエストをこなすまでの日常を淡々と描くわけなんだけど、

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まぁ、こやつなかなかの酒豪で終始酒ばっかり飲んでる文字通りの”酒クズ”

 

 

 

普段お酒は一滴も飲まないんで分かりませんが ”アペリティフ”っていうんですかね?

食前酒みたいなものが水よりまず先に出てきて、それをグビリグビリと飲み干していく様は圧巻。

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”幸運”のパラメーター値に振ったのか、偶然引っ越しのバイト(クエスト)にありついたりして200フランの別途収入が入ったもんだから、「そら飲むやろ~~」とばかりに酒を求めて街中をフラフラと彷徨う姿は哀愁を超えて可愛さすら感じる。

 

どうやら親子代々炭鉱で働いてきた肉体労働者の家系らしいことが示され、ある炭鉱で知り合った男の妻と姦通してしまい、はずみで旦那を手にかけた過去を持つらしいアンドレだったが、ちょうど金を返しにいく途中で件の妻とバッタリ。

 

羽振りが良いらしい妻に対して、みすぼらしいアンドレは明らかに不釣り合いでかつて燃え上がった恋の炎も今や消えかかった蝋燭のよう。

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普段から橋の下に住み着いているアンドレは、住み慣れた故郷を離れる際に両親から貰った懐中時計をたまに手にとっては、両親の愛情に包まれていた頃を思い出し、新聞紙にくるまりながら眠る。宿無し、文無しには、最早思い出くらいにしかすがるものがないということなんだろうか…

 

なにぶん、かなり昔の映画ですがイタリア・フランス共同製作の映画らしく、

結構頻繁に2か国の言葉が入り乱れます。時代設定的なところは分からないんですが、唐突に近代的な地下鉄のシーンが入ったりして、その辺も含めて都会にも田舎にもアイデンティティのない放浪者の視点っていみでは一種の紀行ものみたいな趣があって面白いです。

 

途中で出会う”行きずりの女”ことダンサーのギャビーちゃんがひたすらに可愛くって、

宿泊先のホテルで人肌寂しくなってアンドレの様子をうかがうシーンがあるんですが、

まー、これが可愛いの。

 

アニメみたいな目をして、いたずら好きから色々やらかすんですが、こんな可愛いなら許しちゃうね。

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サンドリーヌ・デュマさんっていうらしいですが、『ふたりのベロニカ』に出てたらしい…(全然覚えてない)

 

その他、かつての学友がボクシングのヘビー級チャンピオンになっていたことを知り、久々の再会に上等なスーツを貰ったり、一流のホテルに泊まらせてもらったりするのだけれど、アンドレにうまいこと取り入って返すべきお金を浪費させる刑務所時代の悪友の誘いに乗ってしまったりして、お金を使い果たしてしまうアンドレ。

 

結果としてアンドレがどのような結末を迎えるのかは実際本編をご覧になってほしいところはあるんですが、個人的にはハッピーでもないし、バッドでもないかなと思いましたね。

 

結構、人の命が軽いというか…安易に人間の一生を変に美化もせずただ淡々と描き切っている映画だなと思ったので、別段これといった感動もないのですが、とはいえじんわり心に残るものがある良作だなとは思ったのです。

 

主人公のアンドレが「良心があるのかないのか」非常にフワフワした存在なんですが、

かといって、こういう系統の映画によくある行動の矛盾だったり「馬鹿なことをやらかす」ことで生じるストレスに感じることもなかったですし、

やっぱりそこはルドガー・ハウアー。存在感の中にちゃんと心情の流れを出してくるので安心して観れた印象。

 

同じく酒カス系の映画『バーフライ』が見たくなりました。

やっぱり真人間よりクズな生き方してる人間のほうが愛着もてるんよ。

 

聖なる酔っぱらいの伝説

聖なる酔っぱらいの伝説

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